Old Smith & Wesson Knives

当初はオールドS&Wナイフネタを書こうと思っていたのが、この頃は60~70年代アメリカン・ナイフ再発見の話です

パンフレット Model 6070 Skinner

f:id:oldswknives:20150306125236j:plain

Skinner Model 6070

A sturdy, hard working skinner design with 3 1/2 inch dropped point blade. Wessonwood handle is tapered and curved down to pommel for best skinning action. Finger groove blends into sure working grip. Weighs 6 ounces and is 7 5/8 inches overall length.

(3 1/2インチのドロップポイント・ブレードの、頑丈で荒く使えるスキナー・デザインです。Wessonwoodのハンドルは、ベストのスキニング作業のため、くびれ、ポメルに向かって湾曲しています。確実なグリップのためにフィンガー・グルーブを組み合わせています。重量6オンス、全長7 5/8インチです)

画像のソース
http://smith-wessonforum.com/smith-wesson-knives-collectables/106690-s-w-knife-brochure.html

 

 生産総数は15, 500丁のスキニングナイフ、米国で一番ポピュラーな?鹿狩りに使うことを想定していると思われるが、もちろん細々とした用途にも使いやすそうだ*1

 パンフレットによると、

-Skinner and Folding Hunter blades are hand ground from steel billets.

 とのことで、ストック鋼材から削り出しで造られている。標準的な造り方で、もちろん問題はないが、ステンレス鋼鍛造というのがオールドS&Wナイフの売り文句の一つであればこそ、全ラインナップでそれをやってほしかった気もしないではない。

 ブレード考でも書いたが、工程上のメリットが少なかったのかもしれない。S&Wも、銃器製造の経験からそのあたりのプロ・コンを見極めたのだろう。現代技術でロールされたステンレス鋼材の鍛造について、意味がある、いや意味がないといった論争は常にあり、これといった結論も出ないのも常である。

 例えば銃器のフレームであるとか、あるいはクランクシャフトみたいなレシプロエンジンの部品、クレーン用の巨大フックのようなものを鍛造で造るとして、機械的強度の向上や、その結果として薄肉にできることによる軽量化、あるいは工程の簡略化、材料の無駄減らし等のメリットがあることは広く知られている*2

 ではステンレス鋼刃物ではどうかといえば、効果がない、あるいは少ない、鍛造処理の不具合、鍛造時の温度管理がシビアなことによる*3エラーの発生によるデメリットもあるといった意見があり、いややはり鍛造刃物は強度も優れ切れ味良く長く切れるのだという意見もある。比較テストでもすればいいのだろうが、個人レベルでは設備も必要で困難だ。それでも機械的強度は測定が比較的簡単かもしれないが、切れ味の測定というのは、未だ容易ではない。と、いうわけでいつまでも結論の出ない堂々巡りになりがちではある。

 ロールされた鋼材は、圧延の送り方向に沿った金属組織の流れがあり、この目に沿ってブレードを作るか、あるいはそこから90度回転して材料を取るかで、刃物の特性は変わり、それゆえ刃物用に特に縦横2方向にロールして造られる鋼材が存在する。

 乱暴に言えば、一方向のロール材だと、材料を縦に取ったものは折れにくいが刃のかかりは弱く、横に取ると刃のかかりがよいが折れやすい性質になるらしい。もちろん鋼だから簡単に折れたりするものではないが、特性としては木工における木目の扱いと同じなのだろう。

 ここからわかるのは、現代技術であれ、一方向のロールでは刃物にとって最高の状態にはなっていないということだ。では鍛造するとどうなるかという話になるが、鍛造の仕方によっていろいろなんだろうと思うが、木目が複雑化する方向に向かうのだろう。芯は縦目で刃先は横目というのが理想なのかもしれない。

 使用感から明確に鍛造刃物を識別できるほどの差異は、私を含む一般ユーザには感じられないものだと思う。したがって、現実的には、刃物における鍛造成形というのは必須の工程ではないと言える。一方で、もし適正な鍛造成形が行われれば、少なくとも道具としてよりよい状態になるだろうという推測はできるし、それを付加価値として宣伝に使うこともできる。

*1:個人的な話をすれば、私は野外では、この刃長は折り畳み式をポケットに入れ、必要があれば中型ナイフをベルトシースに、という組み合わせを好んでいるので、実際には、このサイズのシースナイフは過去に購入したことはあるが、全て手放してしまった。案外、インドアというかデスクナイフとして使い道がありそうな感じもある。

*2:S&Wは、他社の鋳物で造った拳銃は、十分な強度を確保するためには重くなってしまうという点を指摘し、自社の拳銃が鍛造による軽量薄肉の理想的構造であると宣伝していた。キャストがいいのか鍛造がいいのかというのは、拳銃ユーザにとっても論争の種になりがちだ。

*3:低クロムの鋼に比べて高温で鍛造しなければならない。かといって温度が上がり過ぎれば組織が壊れる。