Old Smith & Wesson Knives

当初はオールドS&Wナイフネタを書こうと思っていたのが、この頃は60~70年代アメリカン・ナイフ再発見の話です

ナイフを研ぐ

The proper way to sharpen your Smith & Wesson flat ground blade.

Your S&W blade should be sharpened on a clean, relatively fine grit stone, well oiled to float particles away.Lay the blade edge flat across the stone, edge first, with a "shaving" action. Turn the blade over on alternate strokes for equal sharpening action on each side of the edge.The angle of the blade to the stone should be kept constant for best results.

For the finest possible edge, wipe the blade clean and strop it on a piece of leather (high top, smooth leather boots will do), this time with the edge away from the direction of the drawing action.

あなたのS&Wフラットグラインドブレードの正しい研ぎ方

S&Wのブレードは、粒子を浮かせて流し去れるようにたっぷりのオイルを使い、クリーンで比較的細かい番手の砥石で研いでください。砥石の上に刃を寝かせ、峰から刃の方向に向けて剃刀で剃るような動きで研ぎます。ブレードを裏返してもう一方も同じように研いでください。よい結果のためには、ブレードの砥石に対するアングルを一定に保たなければなりません。

さらなる刃付けをお望みなら、ブレードを一旦拭いてきれいにしてから皮革の切れ端を革砥として研いでください(丈の長い、表面のなめらかなレザーブーツでもできるでしょう)。このときは、刃から峰の方向に引くような動きで研いでください)

 

 と、いうわけで、オーソドックスな研ぎ方がパンフレットに紹介されている。「edge first」で研ぐのは、それがカエリが出にくい研ぎ方であるからなのだが、比較的やわらかく、粘る鋼材だとそれでもカエリは出てしまう。

 

私の砥ぎ方

 ナイフの研ぎというのは、人それぞれお好みでいいのだが、私のやり方を紹介しておこう。使うのは、♯400のダイヤモンド砥と、きめの細かい研ぎ棒(CBNコーティング)。砥面から15~25度の角度(これもお好みで。6010の場合は20度くらいにしている)で刃を寝かせ、やはりedge first、 "shaving" actionで研ぐ。コツはとにかく力を入れずに研ぐことだ。

 ♯400でわずかにカエリが出たら、それを♯400のまま最小化し(下記参照)、残ったごく細かいカエリは研ぎ棒で削ぎ落とす。

 研ぎ棒を当てるときも、研ぎの刃角は変えない。研ぎ棒のステレオタイプ、あの肉屋さんのシャッシャッシャッというような研ぎをする必要はない。すでにダイヤモンド砥でエッジは先端まで研がれているからだ。edge firstで、刃と研ぎ棒が触れるか触れないか、軽く、小さく、かするような動作でカエリを落とす*1

 細かいカエリを落とすのに研ぎ棒を使うのは、研ぎ棒はスチールであれセラミックであれ硬質で刃先を丸めず、一掃きでカエリを削り落すことができるからで、安易にカエリ取りで革砥のような柔らかいものを使うと時間もかかり、刃先を丸めたり、粘るステンレス鋼ではカエリが削れずに折れ曲がり刃先に貼り付く現象が起きやすいのである。

 このようにして得た刃は、粗さと細かさが混在し、肉のような柔らかい繊維質をスライスするのに向いているのはもちろん、産毛を剃り落す鋭さも十分備えている。どちらかといえば、押し削るというよりは引き切るタイプの刃付けの実用刃である。

 刃のダメージが少ないときは研ぎ棒のみでも切れ味を回復させることができる。

 机に研ぎ道具を置いて研いでもいいが、私は左手に研ぎ道具、右手にナイフ(右利き)という剃刀研ぎのスタイルである。

 両方が宙に浮いているわけだから、研ぎの刃角をうまく保てないのでは?とご心配の向きもあると思うが、人体というのはうまくできていて、少し慣れれば案外正確に研げ、力加減も塩梅がいいのである。水も油も使わず、ごく短時間で研ぎあがり、通常の砥石に必要な面直しの手間もなく、野外でも気軽に研げる。

 

電着ダイヤモンド砥石(プレート)とオイルストーン

 ここでいうダイヤモンド砥というのは、鋼板にダイヤモンド微粒子を電着したものだが、これの良さは、高い研削力と硬度、平面性(製造時の平面精度が良好であれば)とその維持性であり、効率のよい研ぎができる。

 一方で、その研削痕は不規則な傷が深くなり(ダイヤモンド砥粒の大きさのわずかな不均一とその分布のムラによる)、もしそれを嫌うなら、油砥石の「Fine India」かその類似品をお勧めする。工場出荷時で#400相当と思われる、このアルミナの合成砥石は中/低硬度の刃物に実用的な刃付けをするのにもっとも適している。Randallナイフの鞘に付属しているものや、エンジンパーツ研磨用のいわゆる「オイルストーン」として販売されるオレンジ~ブラウン色のものがこの種類だ。油脂を染ませてあるものとそうでないタイプがあり、私が使っているのは油っ気がないものである。

 研磨剤にもう少し硬度の高い炭化ボロンを使った同じようなオイルストーンもあるが、日本ではあまり流通していない。中国でいろいろなサイズのものを非常に安価に購入することができる(品質は高くない)。おそらく金型研磨等の工業用途で製造されているものだろう。黒灰色を呈しており、研磨砥粒の硬度が高く(ダイヤモンドや窒化ボロンに次ぐ)、ナイフ用砥石としての使い勝手はよい。

 いずれのオイルストーンも研削力と粒度のバランスがよく、砥粒の結合が強く平面を比較的よく保つ反面、砥粒が剥がれずに残り摩耗することによる研削力の低下(目詰まりではなく、表面の砥粒が丸くなってしまう)が使用に伴い起こる。研削力が落ちてきたら砥面をドレッシングする必要があるが、普通の面直しの要領ではなかなか出荷時のような粗さには戻らない。上で「工場出荷時で#400相当」と書いたのは、つまりそういうわけで、使用に伴い高番手になっていくのである。水でも油でも使えるが、私の場合は刃物研ぎにはドライで使い、毎使用後に水で洗浄する。

 Fine Indiaは、ドライで研いで目詰まりが問題になることはないが、水やオイルで研いで問題が起きると感じているわけでもない。どちらでもお好みというわけだが、油研ぎを野外でするなら当然研ぎ油を携帯する必要もあり、研いだ後に手もナイフも洗剤で洗浄する手間もかかるので私は好まない。

 ダイヤモンド砥は水砥ぎが推奨されることもあるが、ドライで使っても手研ぎの範囲内では問題は感じない。ただ、刃こぼれなどの修正研ぎで研削量が多く研磨カスが溜まる場合は、都度、砥面から払い落とすか洗浄したほうがいいだろう。

 

砥ぎ棒(シャープニングスチール)

 研ぎ棒での研ぎは、砥石での研ぎとは異なるという意見がある。いわく、研ぎ棒はタッチアップでありシャープニングではない、砥石はホーニングでありシャープニングであるという記述もあったりする。これは、研磨力と研ぎ角、研ぎ圧力の三つの要素が入り組んでこういう意見が出てくるものと思われるが、個人的には両者に違いはないと考える。

 研磨力について。粗めの研ぎ棒はハード・アーカンサスよりも研磨力は大きい。それではハード・アーカンサス砥石の研ぎはインディア砥石の研ぎと違うのか?といえば研磨力以外に違いはないんである。

 研ぎ角について。研ぎ棒を当てる角度を大きくすれば、確かに一時しのぎの研ぎしかできないだろうが、本来の切刃の角度で当てれば細かい砥石で研ぐのと変わりはない。

 研ぎ圧力については後述する。

 私の研ぎ棒はスチール棒に窒化ボロンのコーティングが施されたものだが、別にクロム炭化物コーティングでも、セラミック棒でも構わない(ただ、セラミックは硬いものの上に落とすと破損/折損することがあるのでご注意)。要するに望む番手のものを選べばいい。いろいろと試したが、あまり細かすぎても私の場合はいい結果にはならないようだ。カエリとりには、ある程度の研削/研磨力が必要なのだろう。

 逆に言えば、粗い番手の砥石でできた大きなカエリを、いきなり細かい研ぎ棒(あるいは砥石)で切り落そうとしても刃先にとって良い結果にはならない。カエリは同一番手内での研磨研削で切り落とし、それでも残る細かいカエリの欠片を研ぎ棒で切り落すイメージである。

 研ぎ棒の特性として、刃先を研磨研削する側面と塑性変形させる側面があり、このバランスが案外重要なのかもしれないと思っている。これは番手だけの問題だけではなく、殊に硬い研ぎ棒(スチール)では、研ぐ際の圧力の大小も重要な要素になる。要するに、強く圧し付けて研ぐと、刃先の金属組織を大きく塑性変形させ、ダメージを与える可能性がある。

 また、研磨力の低い研ぎ棒でダラダラと研いでいると、刃の両側面から刃先を繰り返し塑性変形させることになり、疲労が蓄積した、弱い刃先になってしまう。時間をかけて研げば研ぐほど切れ味が良くなるような錯覚に我々は陥りがちなんだけど、研磨後の刃先強度(つまり刃持ちに関係する)を考えれば不必要な研磨というのは避けるべきだし、むやみに高番手の仕上げをかけるのも刃持ちを悪くすることにつながる。

 ま、これは研ぎ棒に限った話ではなく、砥石であっても程度の差はあれ同じようなことは言える。研ぎ棒の場合、面が硬く、切刃との接触面積が小さく(圧力が高く)、かつ、かなり力を入れてシャシャッとする人がいるので問題が起きやすいんだろうと思われる。

 私の場合の(実用上の)目安としては、通常のセラミック砥ぎ棒の細かさが高番手の限界である。#400の研ぎ目は残しつつ、研ぎ棒はあくまでカエリを取り除くために使う。

 その他、昔ガーバーが販売していた「スポーツマンズ・スチール*2」は、野外でタガネ・クサビとしても使えて便利なので、今も大事に使っている。これも肉切りに適したやや粗めの仕上がりになる。残念ながら、現在では製造されていない。

 スポーツマンズ・スチールは、5インチと8インチの2タイプがあり、8インチのほうが使い勝手はいいのだが、野外で携帯するなら5インチのほうが幾分軽いのが悩むところである。ナイフのブレード長によって使い分けるのがいいだろう。

 長辺のヘリが丸みを帯びて縦溝が彫られているが、この部分を使うとまさにブッチャー・スチールとして機能し、平面部はやや細かい仕上げ研ぎに使う。表面は硬いクロム炭化物が吹きつけられ、通常の刃物類はすべて問題なく研げる。

 クロム・カーバイドの表面コートは、ダイヤ砥のような研削力はないが、非常に寿命が長い。手元に1970年頃製造の、相当使い古したものがあるが、まだまだ使用できるのである。

 案外評価されていないのだが、Gerber Sportsman's Steelの偉大なところというのは、それが半永久的に使用できる研ぎ道具というだけでなく、研ぎと野外での粗作業用のタガネの機能を併せたところである。例えば砥石にしても研ぎ棒にしても単機能の道具で、刃物を研ぐ以外の出番はほぼ、ない。その割には、野外では重く嵩張る存在である。

 ところが、この研ぎ機能つきタガネとも言うべきスポーツマンズ・スチールを装備することで、ナイフを研ぐのは勿論として、ナイフを使うべきではない荒い作業、こじる、打ち砕く、叩き折る、クサビを打つ等々にこれを役立てることができるのである。私の知る限り、研ぎ以外の有用な機能を持たせた研ぎ道具というのはほかにはない。

 少し前に、ナイフのブレードを斧やクサビのように使う「バトニング」というテクニック?がアメリカで流行ったことがあるが、何とも愚かな話だった。刃物用途に熱処理された鋼材は衝撃により疲労が蓄積し、いずれ破断につながるのである。

 研ぎに話を戻すと、人間心理として、早く刃を立てたい気持ちから、ともすれば力を入れて研いでしまったり、あるいは研ぎ棒を当てるときに鈍角にしていたりするが、あせらずに一定角度でごく軽い力で研ぐのがよい結果につながる。

 ともかく、力を入れずにエッジ両面を撫でることでカエリを最小化するわけだが、どうしても細かなカエリを取りきれない場合は、革砥で落とすのも一つの方法ではある(私見ではあるが、革砥に研磨剤は不要。刃先を不必要に丸めてしまう。もしカエリ取りに研磨剤が必要なのであれば、それは本来、砥石や研ぎ棒で取り除くべきカエリであると考える*3)。

 以前は各種の水砥石・油砥石を揃え、エッジが鏡面になるような研ぎもしていたが、私の使い方だと、汎用ナイフの刃付けは、実用上、400-500番程度の砥ぎ目が残るように仕上げるのが一番使いやすく、刃のかかりもよく、また刃持ちも良い*4。肉や柔らかい繊維質のものを切ることが多ければ粗めに、繊細な切れが必要な場合は気持ち細かくすればいい。

 

タッチアップ

 砥石のサイズは、研ぐブレードの刃長より長く幅もある程度あるものが使いやすいとされる。とはいうものの野外に8インチのベンチストーンを持ち出す気にはならない。家でベンチストーンを使い、野外ではこまめなタッチアップをすることが、一般的には推奨されている。

 タッチアップという語は、一般的な用法では、本来の研ぎ角より鈍角に刃先を研ぐことの意味を持たせているようだが、そのような研ぎ方が理想的ではないことは少し考えれば理解いただけることと思う。

 私がおすすめするのは、別に難しい話ではなく、要するに、本来の研ぎ角でタッチアップをすればよい。私の6010ボウイは、Randallナイフ用の鞘で使っているが、この鞘に附属する7.5×2.5センチ程度の小さな砥石であれ「本来の研ぎ角でタッチアップする」ことができる。同じようなサイズのダイアモンド砥でも、研ぎ棒でも同じことだ。適切な番手を選べば3分もかからない。

 「本来の研ぎ角でタッチアップする」ことと「本来の研ぎ角より鈍角にタッチアップする」ことの違いは、本来の研ぎ角で研ぐほうが、下ろす(研磨で取り除く)鋼の量が多いことである。

 つまり、鈍角にタッチアップするほうがラクなんである。しかし、本来の研ぎ角でタッチアップすることが重作業なのかといえば、研削/研磨力をある程度備えた砥石や研ぎ棒を使う範囲においては、そんなことはない、たいして変わらないのはやってみればわかることだ。

 もし、本来の研ぎ角でタッチアップしても一向に刃がつかないということであれば、それは磨材の選択が不適切なためで、その場合はより研削/研磨力の高い、番手の低い磨材を選ぶべきだろう。刃先強度のために鈍角に研ぐことと、その場しのぎで鈍角に研ぐことは意味が違う。

 アウトドアナイフに限らず、刃物は使い始めた時点で鈍り始め、それを研ぎながら使うものである。理想的なのは、ナイフを使う環境で、短時間で簡便に研ぎ直せることだろう。自宅の書斎で長時間かけて研ぎ澄ますというのは研ぎ趣味の世界であって、実用ナイフの研ぎとは異なると考えている。

  なお、小型の砥石で研ぐときのやり方は、これもお好みではあるが、私の場合は、やはり「剃刀研ぎ」のスタイルで行う。ベンチストーンを使うのに較べると相当窮屈に見えると思うが、結局「慣れ」の問題である。

 

カエリの落とし方

 金属類の研磨研削におけるいわゆるバリ(burr)の発生というのは常に問題になる事象で、加工により塑性変形した素材のはみ出しである。

 刃物研ぎの目的は、要するに切り刃(ミクロに見れば刃先断面は丸くなっており、それを半円と見たときの直径)の、使用目的に応じた最小化なわけだが、研磨研削の例に漏れず肝心の刃先にバリが発生する。いわゆるカエリである。アウトドアナイフの刃先角は25~60度くらいと比較的鋭角なので、刃物研ぎというのはバリが発生しやすい加工といえる。

 材料の塑性変形の産物であるから、軟らかく粘りのある鋼材ほどこのカエリが出やすい。高硬度鋼材は比較的にカエリは発生しにくい。一方でアウトドアナイフには中低硬度で粘りのある鋼材の採用が、ブレードの強度上望ましく、硬い和包丁に比較するとこのカエリをいかになくすかが研ぎの一つの課題になる。ステンレス鋼のカエリがよく問題にされるが、プレーンな組成の炭素鋼であっても低硬度鋼材では同様に問題になる。

 カエリの発生は切れ味の低下につながるため、まずはこのカエリの発生を抑止したい、ということになるのだが、刃物研ぎにおいては「edge first」で研ぐのがまずは基本である。工具(研磨材)が出ていく部分に出るバリが大きいため、刃先を工具の「入口」にするわけだ。

 刃先が鈍ったナイフを一定角度で研いでいくと、最初は研磨面はまだ刃先に達していない状態であり、この時点ではエッジ・ファースト(押し研ぎ)でもエッジ・トレーリング(引き研ぎ)でもかまわない。次第に研磨面は刃先に達するので、この時点ではエッジ・ファーストで研ぐことで「出口バリ」の発生を極力抑える。しかし、また、小さいながら「入口バリ」も発生するため、併せて、研磨圧力を減らし(要するに軽く研ぐ)、研磨速度を落とし、両面を交互に研ぐことでカエリが最小化される。

 カエリを効果的に取り除く前提としては、そもそも発生した小さなバリを検知する必要があり、これは指先で感じ取ることがある程度は可能である。あるいは、腕の産毛を剃ってみて一方の刃面を下にして剃ったときにもう一方よりも剃れるような場合は、より剃れるほうの面にわずかなカエリが出ている。私の場合は、携帯用の高倍率ルーペを使って観察しながらカエリを落とすことが多いが、野外で光線状況が悪い時などは指先の感覚が頼りになるだろう。

 砥石であれ研ぎ棒であれ、通常は刃元(アゴ)からスタートして斜めにスライドしていき切っ先に達するストロークで研ぐ。そしてひっくり返してもう一面も同様というわけだが、これでカエリがうまく取れることもある。一方で両面均等に研いだつもりでもどちらかにわずかなカエリが残る場合もある。

 後者の場合は、1ストロークの研磨量が多く、カエリを落としながら新たなカエリを発生させているか、あるいは研磨材がカエリを切り落とせずに反対側に折り曲げているのが原因である。

 解決方法としては、

①フルストロークの研ぎではなく(一度に全体を研ぐのではなく)、分割して刃先を研磨面に当て、各部1~2ミリだけのスライドで研ぐ。要するに、刃先の研磨量を減らす。

②可能であれば研磨圧力をさらに減らす(特に研ぎ棒は刃先との接触面積が小さいので相対的に圧力は高まる傾向にあることを留意)。

③可能であれば研磨速度をさらに落とす。

 慣れると、いったんカエリが出たら①の方法で切り落とすことができると思う。

 その他、これは私のやり方ではないが、小刃つけを兼ねて鈍角に軽く研いでカエリを落とす方法もある。あるいは、革砥で落とすやり方もある。革砥にはダイヤモンドペースト等の研磨材を加えると研磨力が向上する*5

 革砥での研ぎというのは、軟らかい面で研磨するという点で砥石やダイヤモンドプレート、研ぎ棒での研ぎとは異なる。つまり研磨面が平面ではない。カミソリを革砥で仕上げるのはよく知られているが、この場合刃先の鈍角化(と、それに伴う刃先径の最小化)が起きている。

 そのため、カミソリのような極端な鋭角の刃先でよい結果が得られる場合もあるが(皮膚を傷めないためにも、ある程度の刃先先端の鈍角化が必要なのだろう)、もともとの研ぎ角が比較的鈍角な刃物では、刃先のさらなる鈍角化が悪い結果につながる場合もある。

 逆に言えば、もしアウトドアナイフを革砥で仕上げたいのなら、その前段階は鋭角を心がけて研ぐ必要があるだろう。あるいは、革砥にしても硬質なものを選ぶか、何かもっと硬い基材、例えば木材等に目を向けたほうがいいかもしれない。

 昔の床屋で使われたストラップ状の革砥は、刃先の不必要な鈍角化を防ぐために、たるみの大きい手前側は使わずにピンと張った留め釘側1/3程度を使って、また押しつける圧力はごく軽く研いだものであるが、実はこれでも相当な刃先鈍角化が起きている。革砥は簡単に見えて案外使い方の工夫が必要ということだろう。

 個人的には、アウトドアナイフに革砥仕上げが必要と思ったことはなく、逆に粗い刃先のほうが使いやすく感じるが、まあ好き好きの範疇であろう。

 

しつこいカエリ

 割と初期のGT KNIVESのフォールディングナイフを初めて研いだときに、そのカエリの取れなさ加減に驚いたことがある。反対側にペタッと貼り付くようなカエリである。研いでもなぜか切れるようにならないので、刃先を拡大して観察したところ、そのわけは盛り上がった貼り付きカエリであった。鋼材はATS-34とエッチングされている。

 カエリの切り落としを心がけて研げばそこそこ切れるようになるが、イマイチな感じが付きまとう。刃先に出る巨大炭化物の影響だろうか?発生するカエリを最小限に抑え、残った細かいカエリも注意深く取り除く必要があるのだが、私の場合、高倍率ルーペなしでこのナイフを研ぐのは難しい。

 それまでの私の経験というのはカーボンスチールであれステンレススチールであれ一通り研いだことはあったが、ATS-34はその時が初めてであった。このカエリの取れにくさ加減というのがATS-34のような高合金鋼全般に共通のものなのか、GTKの熱処理による特性なのか、未だにわからないでいる。つまり、その研ぎにくさ(耐摩耗性の高さ(=加工性の悪さ)もあるが、面倒なのはカエリの取りにくさである)にその後ATS34は敬遠しているのである。

 刃先が細かく欠けずに粘るような機械的特性は、汎用ナイフブレードとしては歓迎すべきものではあるから、GTKの熱処理はある意味的を射ている。ラフに使ったことはないが、おそらく刃こぼれ刃欠けの類は発生しにくいだろう(刃先に出た炭化物の脱落によるごく細かいチップはあるだろうが)。

 そしてGTKは何よりそのデザインが素晴らしい。というわけで、未だにそのナイフは時々使うが、研ぎと初期の切れ味に関してはいまひとつすっきりしないんである(ちなみにこのナイフの刃持ちは、手持ちの中でも相当良い部類で、やはり適正な熱処理が施されていると思われる)。

 ATS-34はカスタムナイフメーカーによく使われた、あるいは今もなお使われている鋼材だが、ここまで研ぎにくく切れ味のすっきりしない鋼が長く使われたのはいったいどういう理由なのか?GTKのATS-34が特殊なだけで、通常はステンレス鋼全般とそう変わらないのか?

 440Cであっても高合金鋼であり、理屈の上ではATS-34と組成がそう大きく変わるものではないとも思うのだが、今までにここまでカエリが粘る440Cのブレードは見たことがない。オールドS&Wのナイフ(440A)は、カエリは出ても比較的落としやすい。昔のGerberの440Cにしても、70年代のカスタムナイフ(Gil Hibbenのハンティングナイフ)にしても、ざっと研いでそれなりにカエリは取れる。

 440A/B/Cが研ぎやすい鋼材だとは言わないが(カーボンスチールに比べれば研ぎにくいと思う)、割とラフに研いでもそれなりの切れ味になる一方で、GTKのATS-34は、きちんと切れ味を出すにはちょっと神経を使うというか面倒くさい感覚がある。ステンレス鋼の研ぎにくさというのはよく言われるところだが、その中でも組成や熱処理によって大きな差があるようだ。あるいはGTKがかなり鋭角なエッジなのでそういう印象になるのかもしれない。

 体感的にはっきりわかる性質の違いというのは現象として面白いものだと思うが、研ぎにくいナイフというのは積極的に使う気分がなくなってしまう。

 

研ぎにくい鋼材

 研ぎにくいというのは、いろいろな研ぎにくさがあるので大雑把な表現だが、この項でいう研ぎにくさというのは鋼材の被研削性の悪さというか、耐摩耗性の高さによる研ぎにくさの話である。研ぎやすいとか研ぎにくいというのはまあ相対論なんだけど、普段、普通の砥石で炭素鋼を研いでいると、モリブデンやら何やらの炭化物満載の高速度鋼は本当にオリないという感覚になる。

 それでもまあ研がなければならないというので研ぐわけだが、ジグを使わない手研ぎで、普通の砥石だとものすごい数のストロークになるので研ぎ面も丸まってしまいがちである。というわけでダイヤモンド砥の粗→中と順に使えば一応の解決にはなるのだが、それ以上の仕上げをしたいときにはやはりそれなりの時間もかかり、エッジの消耗も気になる。

 さらに言えば、エッジ(切刃)の幅が広いと(研磨面積が広いと)、ダイヤモンド砥がどんなに切れるといっても、やはりムダに時間がかかってしまう。

 自分なりの工夫としては、まずは切刃の狙う研ぎ角が例えば片側16度だとして、ダイヤモンド粗砥で片側13度なりの鋭角で研ぎ進める。次第に研磨面は刃先に向かうわけだが、カエリが出る寸前で止め、ダイヤモンド中砥で16度でさらっと研ぐ。で、あとはファイン・インディアなりなんなりでお好みという感じである。結果として断面が2段の切刃になる。

 うまい表現が見つからないが、切刃のリリーフを抜くとでも言おうか。ナイフの用途にもよるが、リリーフをぎりぎりまで抜いておくと(実質的なエッジの研ぎ幅を狭くしておくと)野外での研ぎ直しが非常に楽である。再度リリーフを抜き直すまで相当保つのもいい。利点としては切り抜けも良くなる。欠点は、エッジが薄くなるので強度を要求するような刃には向かない(ただ、よっぽどリリーフを抜かなければ、強度に影響するようなケースは汎用のナイフではないだろう。だいたいのファクトリー・ナイフはエッジが厚すぎである)。

 

Fine India系砥石の目立て

 砥石は、砥粒を積極的に脱落させることで常に砥面をリフレッシュするタイプと、砥粒の脱落が少ないタイプのものに分かれる。前者は研磨力に優れ目詰まりのおそれも少ないが、砥面が崩れるために面直しを頻繁に行う必要がある。後者は砥面の崩れは少ないが、砥粒の摩耗による研磨力の低下や目詰まりが発生しやすい。

 どちらがいいかといえばやはりお好みで両方を使い分けている人も多いと思う。私が好んで使うFine India(♯300~400)や、炭化ボロン焼結砥石(♯400~500)は後者のタイプに属する。

 これらの砥石を使う際に油や水などの潤滑剤(切削油というべきか?)を用いることで砥粒の摩耗を抑え、研磨力も向上するという主張もある。そうかもしれないとも思うが、実際に比べてみてもその違いは私にはよくわからない。少なくとも研ぎの感触は良くなるかもしれない。台所ならいいが、野外で油や水で研ぐのも面倒な感じがするため空砥ぎをすることが多い。

 アルミナにしても炭化ボロンにしても硬い研磨剤だし、基材というか接着剤(結合材?)も硬いから、普通の使い方をしている範囲ではそう簡単にすり減っていくことはない。とはいえ、いずれにしてもこれらの砥石は遅かれ早かれ砥面は摩耗し滑らかになっていく。使用後に洗浄しなければ目詰まりも発生するだろう。

 砥面が摩耗し平滑化した砥石は番手が上がって仕上げに使えるともいえるが、私はアウトドアナイフに高番手の仕上げはしないし、そもそも元の番手が必要だから使っているのである。こうなると面直しというか砥面の目立てが必要になる。

 手っ取り早く粗い砥面を復活させる方法を紹介しよう。

 用意するのは♯120あたりの紙やすり(研磨布)である。砥粒はおそらくガーネットのものが多いのではないかと思う。砥石を水に浸し、湿らせた状態で平面に敷いた紙やすりの上で研磨するのである。力加減はいろいろと試してみてほしい。頻繁に砥石の向きを変えて研磨する。

 非耐水の研磨布を使うのがミソで、これの接着剤は水に溶けるため、粗いガーネット(あるいは炭化ケイ素)の遊離砥粒を転がしながら砥面の目を立てるかっこうになる。

 ガーネットでアルミナや炭化ボロンを研磨できるのか疑問に思われる向きもあるかもしれないが、実際には(砥石の研磨材というよりは)結合材を破砕・研磨する作用が働くのだろうか?いずれにしても論より証拠で、適度な粗さで目立てができるのである*6。試したことはないが、もっと粗い研磨剤を使えば砥面はさらに粗くなるだろう。

 要するに適当な粗さの研磨粒と作業平面があればよく、紙やすりにこだわる必要はないのだが、♯120の研磨布はホームセンター等で比較的容易かつ安価に調達できるメリットがある(反面、平面精度は犠牲にはなる)。

 

携帯用ダイヤモンド砥石

 「アイウッド・手持ち砥石・電着・両面ダイヤ♯400/1000」が、私が使った中ではもっとも良かった。

 いったい何が良いのか?

①♯400と♯1000の両面で便利。番手設定も私の好みに合っている
②10センチ×3センチの大きさは携帯のし易さと手持ち研ぎのし易さを考えた場合のベストバランス、薄手でかさばらず軽い
③窒化チタンコートで耐久性が高い

 そして、これはこの製品固有の利点ではないが、金属板なので落下破損の恐れがないのも、野外携帯用としては良い。似たようなサイズ(10センチ×2.5センチ×0.3センチ)の炭化ボロン砥石もいくつか持っていて、これも使い勝手は非常に良いのだが、硬いものの上に落としたら割れそうな感じがあり、それが焼結砥石の欠点である。

 ともかく、この小型ダイヤモンドプレートが気にいったので、ストック用に追加で2枚を購入したほどである。

 不満があるとすれば、私の使っているプレートの場合、厳密な平面が出ていないことである。プレートの基材は、鋼板をプレスで打ち抜いて製作していると思われるが、抜いた後の平面研磨が不十分なため、ほんの僅かながら、抜いた上面のヘリ部分が窪み、抜けた下面のヘリが出っ張っているのである(プレスによる塑性変形が十分に修正されていない)。

 何が問題になるかと言えば上面(私のものだと♯400の面)を使う場合は大きな問題はない。下面(♯1000の面)を使うと、僅かに高くなっている長辺ヘリ部がワークに接触するため、このヘリ部分のみダイヤ砥粒の消耗が激しく、中央部はワークに接触しないという状態になる。

 これは、特に包丁のような直線部が長い刃物を研ぐときに問題になる。

 私の場合、主に使うのは♯400の面だから大きな問題はないとはいえ(きちんと平面が出ていたほうがやはり使用上気持ちがよいし効率もよいが)、製造時の基材の平面出しは、殊にダイヤモンド電着プレートは面修正ができないのだから、きちんと行うべきであろう。せっかくの両面なのに、もったいない話である。

 

 さて、このサイズの手持ち砥石は使うのにコツがいる。アイウッドの商品パッケージ写真を見ると、ハサミなり包丁なりのワークを固定してダイヤプレートを動かして研ぐようなイメージである。これはこれで一つのやり方なのだが、小・中型のナイフの場合は、片手でプレートを保持し、もう一方の手でナイフを持ち動かして研ぐのが私の好みだ。まあ慣れの問題なのだが、このほうが(私の場合は)研ぎ角一定で研げるのである。

 小型の刃物の場合は、プレートとナイフの持つ手はそのままに、カミソリ研ぎのようにナイフの向きをひっくり返して研ぐが、中・大型の刃物の場合は、裏面を研ぐ場合には手を持ち替えて常に手前から先にエッジ・ファーストで研ぐようにする(これはこうしたほうがよいということではなく、単に私の手癖というか、個人的にそのほうがやりやすい、一定角度を保ちやすいというだけの話である。つまるところナイフ研ぎは、個々人がやりやすくよい結果につながるやり方を選べばよい)。

 プレートは、二つの短辺をそれぞれ親指と人差し指でおさえ、中指で底を支えるように持つ。刃の進行方向に指が当たる持ち方なので慣れないと危険である。慣れない人は、力を入れずゆっくり研ぐのがよいし*7、そもそも本来それがダイヤモンド砥石の理想的研ぎ方でもある。電着ダイヤは研削力が高いので焦る必要はないんである。力をいれて急いで研ぐのは、刃先を傷めるだけでなくプレート自体の寿命を短くする。

 このプレートに限った話ではないが、比較的粗く砥面の硬い砥石を使う場合、誤った角度で(この場合は概ね鈍角に)砥面に切り込んだ場合、砥粒と刃先が衝突して、あるいは溝に刃先がひっかかり、刃先を傷めることがある。防止策としては、研ぎ角を一定に保ち砥面に切り込まないように注意するほかないのだが、研ぎ油(潤滑剤)を使うことで若干緩和することができるかもしれない。電着ダイヤ砥の場合は、特に新品の使い始めは砥面の凹凸が大きく、ひっかかりが発生しやすい傾向がある。

 砥ぎ方について話を戻すと、ランドールナイフ等の鞘に附属する小型砥石も同様、砥石を固定するなりワークを固定するなり、好みのやり方を選べばよい。ワークを固定して砥石を動かす場合、石を円を描くようにしながら研ぐやり方もあり、これは研ぎ角をきちんと保持できれば案外良い刃がつくものだ。

 ちょっとした工夫で、小型砥石を安全に保持できるようなグリップというかホルダー的なものを作ってみるのも面白いかもしれない。

*1:ただ、あくまで研ぐ際には刃を砥面に一定した圧力で圧しつける必要はある。刃物の重みだけで研ぐというような表現があるが、これも正確に言えば、ナイフをフリーにした状態で砥面に滑らせるのではなく、あくまで一定のフリクションを常に保った状態で研ぐ、その圧力を減じるということになる。

*2:昔からSchrade「Old Timer」ブランドで類似品(Honesteel、確か7インチくらい)があって、そちらは、現在も販売しているかもしれない(おそらく今は中国製だろう)。GerberとSchradeのどちらがオリジナルなのかはよくわからない。70年代のアメリカのアウトドア雑誌には双方の広告が載っている。Gerberの印刷物では1960年代後半に5インチのスチールが登場しており、Schradeのほうは1972年カタログが確認できる最初の登場である。あるいは、どちらか一方が製造元で他方に提供していたとか、どちらもOEMで共通の下請けメーカーが製造していた可能性もある。ただ、これについての確かな情報はなく憶測である。

*3:そのような場合は、硬軟のアーカンサス砥石を使うのが効率的だと思う。砥面をよくドレッシング&平面出ししたアーカンサス・ストーンが細かいカエリ取りに有効な場合がある。

*4:どれくらいの番手で仕上げるのがいいかということに関しては諸説あり、また、好みの問題でもあるが、その刃物をどういう用途に使うかということにもかかっている。例えば麻ロープを延々とスライスするような使い方だと番手が低めのほうが長切れするという実験結果(Edge retention with different grit finishes on 3Cr13 stainless)がある。

*5:とは言え、革砥に研磨材を加えて使うのは、それはそれで効果を発揮するのは確かなんだけど、だったら必要な番手の砥石を使えばもっと短時間で刃先を丸めずに(鈍角化せずに)研磨できると思っちゃうんだよな。

*6:面直しに金剛砂を使うと効果覿面である。頻繁に砥石の面直しをされる人には必携。

*7:しつこいようだが、力を入れずに研ぐというのは、ナイフをフリーにして砥面に滑らせるという意味ではない。これをやるとかえって刃先を傷める場合がある。