Old Smith & Wesson Knives

当初はオールドS&Wナイフネタを書こうと思っていたのが、この頃は60~70年代アメリカン・ナイフ再発見の話です

ハンドル考

パンフレットの記述を見てみよう。

Smith & Wesson sportsmen's knife handles are made of Wessonwood,a distinctly grained natural wood that is pressure impregnated with phenolic resin to give it the hardness and durability required for a lifetime of outdoor use.Wessonwood is dimensionally stable,moisture proof,and as impact resistant as metal.When fitted to the wide,heavy tang and fastened with epoxy adhesive,there is no possibility of the handle turning or coming loose.

The Survival and Outdoorsman models have emergency equipment cavities built into their handles.Uni-Handle construction secures tang,handles and the brass cylinder that forms the cavity with a powerful epoxy adhesive to make one inseparable unit.

S&W Fishermen's Knife handles are durable Brazilian Rosewood,epoxied to the full tang throughout its length.

(S&Wのスポーツマンナイフのハンドルは、生涯アウトドアで使い続けるために必要な硬さと丈夫さを得るため、フェノール樹脂で圧力浸含された、くっきりと木目の通った自然木であるWessonwoodから造られます。Wessonwoodは、狂いがなく寸法的に安定しており、防湿性に優れ、金属のような耐衝撃性能をもちます。幅広く重厚なタングに取り付けられエポキシ接着剤で接着されると、ハンドル材がずれたり緩んでしまう可能性はありません。

サバイバルとアウトドアーズマンは、緊急時装備を収める空洞がハンドルに設けられています。Uni-Handle構造は、タングとハンドル、空洞を形成する真鍮製のパイプを強力なエポキシ接着剤で、分離できない一体のユニットになるようしっかりと固定します。

S&Wフィッシャーマンナイフのハンドルは、ハンドル全長にわたるフルタングをエポキシ接着された、丈夫なブラジリアン・ローズウッドです)



<Wessonwood>

 さて、これらのナイフは少なくとも35年を経ている。私が2丁の6010を購入したのは2002年頃だっただろうか?20年間、箱入り新品の状態で倉庫なり店頭なりに保管され、その後10年程度いろいろな環境で使用されたわけだが、Wessonwoodのハンドルは剥離破損はない。ただし、いずれのハンドルも表面にヘアライン状の浅いクラックが出ており、これは購入時からそのような傾向はあった。

 このクラックは、加工時の熱によるものか、高温、低温の急激な温度変化によるものか、浸水によるものか、あるいはホーニングオイルの影響か、それとも紫外線その他による樹脂の劣化なのか、よくわからない。タングの腐食膨張に伴う内側からのクラックではなく、表面のわずかな膨張によるはち切れたような浅いクラックに見える。

 ちなみに、自分のナイフではないが、知人のコレクションにもやはり同じような現象が見られた。内部のパイプ部分まで完全に亀裂が入ったアウトドアーズマンを見たことがあるが、これはあるいは落下衝撃等が原因だった可能性もある。亀裂はあるが真鍮パイプからは剥離しておらず使用可能な状態だった。

 Wessonwoodというのは、いわゆる強化積層木材で、パッカウッドやダイモンドウッドの類である。手元の6010は、ダイモンドウッドに非常に似ており、あるいはRutland PlywoodからOEM供給を受けていたのかもしれない。ダイモンドウッドはバーチを基材にしており、用途としては「Archery Stock, Pistol Grips, Crafts, Knitting Needles, Ornaments, Pens, Brushes, Awards, Frames, Billiards Tables and Pool Cues, Musical Instruments」とルトプライのホームページに書いてある。

 タフで防湿性あり、というのがやはり謳い文句なのだが、しかし実際のところはいろいろ問題も聞く素材で、加工性が良くない(また、加工時の熱に弱い)、クラックが出る、案外もろく割れやすい等である。これがいわゆる強化積層木全般の問題なのか、特定のメーカーの製品に見られるものなのかはわからない。ただ、日本製の強化積層木でこまかいクラックが出たのは見たことはない(常に水場にあったキッチンナイフのハンドル材が層間剥離したのは見たことがある)。

 バキュームでバーチ薄片にフェノール樹脂を浸含させ、その薄片を積層して、圧力と熱をかけてフェノール樹脂を硬化させるというのが製法なのだが、個人的には時間の経過とともにフェノール樹脂が劣化、圧縮ストレスを受けていた基材がわずかに膨張して悪さをするのではないかと想像している。

 私の結論としては、このようなものだ。

・バーチの積層木なので高級感にいささか欠けるが、真鍮部分とよく調和し、耐久性・耐水性・耐汚性もそれなりにあるので素材としては悪くない選択か?
・とはいえパンフレットで謳っているほど優れた素材ではない。
・クラックが出ても、通常は浅いもので使用上問題が出ることはほとんどないと思われる。もし割れてしまっても破片があれば修復は容易である。

 なお、私の6010は、1976年製造の物は無着色、1978年製造の物は焦げ茶色に基材を着色したもの(ダイモンドウッドでいうところのマッカーサーエボニー)を使っている。時期により変更があったのか、メーカーがあまり気にしていない(混ざっている)のかは不明。テキサスレンジャーナイフは、明らかに異種の強化積層木を使っているように見える。

<ホローハンドル構造>

 ホローハンドルというと、当然強度が気になるところではある。バットキャップを外して中をのぞくと真鍮のシリンダーとタングがナットで結合されているのが見える。タングはある程度の長さがあるので一定の強度は確保されていると思われ、ナイフとしての正常使用の範囲内で問題が出ることはないようだ。しかし鉈のように使うことはためらわれる。せめてシリンダーの材質がステンレス鋼だったら精神衛生上良かったのではないかと思うが、まあステンレス鋼の加工性は良くないから、テストもして真鍮で十分となったのか。

 サバイバル、およびアウトドアーズマンの各モデルは、私は手にとって観察したことはあるが実際に使い込んだことはないので実使用での耐久性はわからない。これらのハンドルの握り心地は素晴らしく、単純なパイプ形状が多いこの種のナイフのなかでは群を抜いている。案外、力学的にも検討され、強度を持たせることが可能な構造なのかもしれない。だが、ホローハンドルにおける強度不安というのは、物理的な問題であると同時に、使う側の心理的な問題でもあって、それゆえ現在では採用されにくい構成ではある。

 物理的心理的強度を犠牲にするに見合った実用上のメリットが感じられない、ということなのだが、一方で、秘密の収納空間に防水マッチや釣り糸釣り針なりの小物を収納するのは、それはそれでちょっとした楽しみであり、遊びの要素があるわけで、そこまで実用性を追求する必要もないような気もする。とすれば、限られた空間に何をどのように収納するか、さまざまに心を巡らせて楽しむのが、この狭小空間の存在価値だろう。

 6010の場合、パンフレットにも写真があるが、タングは異例の幅広さで、強度に注意が払われていることがわかる。スキナーの場合はそもそも初めから高い強度は必要ではないし、ハンドル下端に真鍮のタング受け金具が埋まっており(つまりハンドル下端までタングが通っている)、やはり接合強度は十分という印象だ。


画像のソース
http://smith-wessonforum.com/smith-wesson-knives-collectables/106690-s-w-knife-brochure.html

 6010ボウイのタング形状

 ebayで見つけた、ブレード部材(品質上の何らかの原因で完成品とならなかった)の写真。

f:id:oldswknives:20150528002953j:plain

 ブレードとタングの段差部分内角にきちんとR処理がされ、応力集中を避けているのがわかる。タングエンドのねじ切り部分をアニールしているかどうかは気になるところである。

f:id:oldswknives:20150528002335j:plain

f:id:oldswknives:20150528002402j:plain

f:id:oldswknives:20150528002417j:plain