Old Smith & Wesson Knives

当初はオールドS&Wナイフネタを書こうと思っていたのが、この頃は60~70年代アメリカン・ナイフ再発見の話です

Old Loveless knifeの追体験(と、Schrade 153UH "Golden Spike")

 ラブレスさん(Robert Waldorf Loveless)が物故されてはや6年、カスタム・ナイフ界の偉人であり、その人間臭さもオモシロイ、古き良き合理主義のアメリカ人という感じなんだが、設計の素晴らしさとブレード鋼材への飽くなき追求が業績であり、日本人メーカーにも縁が深い人であったようだ。

 古いカタログなんかを見てみると、この時代のアメリカン職人という感じの、いささかクセのある人柄が窺え、彼の成した作品のすべてが完璧であるとは言わないものの、今なお学ぶことも多いように思うんである。

 かなり前からラブレス・ナイフは高価であり、遊びナイフの対価としては私にとってはまったく割に合わないがために、オリジナルのラブレス・ナイフは長く購入の対象にはなりえなかった。とはいえ、そのデザインと哲学はぜひ体験してみたいものでもあった。で、時間も経って、ひと財産できたのでさてここらで買って試してみようか、ということかといえば、この記事は残念ながらそういう話ではない。

  私がかねてから気になっていたのは、デザインもさることながら、彼のかつての鋼材、154CM*1であった。

 ラブレスさんが154CMを使い始めた頃、といっても私は実体験しているわけではないが、まさにスーパー・スチール、なんせボーイング747のエンジンに使われている!*2という次第である。今ではそれほど珍しい存在でもなく、当時のプレミアム感は薄れ、その手の用途には今や各種の粉末鋼が出回っているが、ラブレスさんが長い時期154CM(及びそのほぼ同鋼種のATS34)を使っていたのには、やはり相応の理由があるのではないかという、好奇心である。

 ラブレスの154CMを研いで使って遊んでみようというわけなんであるが、やはり値段がハードルである。デザインを試したいだけなら日本のメーカーが、比較的安価で素晴らしい品質のナイフをカスタム、ファクトリー問わずいろいろ作っているが、やはり当時の鋼材、当時の熱処理*3のものを試したい。

 で、どうするかといえば、まあどうしようもないが、実は当時のラブレス・ナイフのデザインと鋼材、熱処理がほぼ同等である*4と思われ、かつそれほど高価でもないナイフというのが存在したのである。

 

RL2 "Schrade-Loveless Hunter"

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 相変わらず前置きが長くて恐縮だが、そのナイフというのはシュレード(Schrade)の型番RL2、ラブレスとのコラボレーション・モデル*5であった。

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 シュレードといえば倒産して久しい米国の老舗メーカーである。ブランドはまだ市場に残っていて中国製のナイフ*6がこのブランドを冠して販売されているようである。

 シュレードだが、このメーカーの立ち位置というのは微妙なところにあって、米国では老舗であり有名モデルというか定番モデル*7もけっこうあった。全盛期はラインナップも豊富でフォールディング*8からリジッド・ブレードまで揃えていたわけだ。ただ何というのか、割と低価格ラインが主流というのか、高級品ではない、比較的まともな普及品メーカーといったところだろうか*9? 個人的な印象からいうとバック(Buck Knives)の仕上げ品質レベルには達していないが、別に悪い品物ではない、といってなんとなく作りが雑で安っぽい気がしなくもない、そんな感じである*10

 で、買ってきたRL2、通称シュレード=ラブレス(初期のモデル)であるが、ラブレスこだわりの一品である。何がこだわりか?デザインから材料、製法、シースまで口を出している。鋼材に口を出す以上は当然熱処理にも口を出す。俺の評判にも関わるんだ、ということなんだろう。こういう気質が好きなんだよな。作りはといえば、まあシュレードの当時のレベルである*11

 ともかく、タングはテーパードだし、ぱっと見た目はラブレス・ナイフっぽい。ブレードもよく肉が抜かれて、ブレードライン、やはり素晴らしいデザインだと思ってしまう。シースの出来もなかなか、というかそれ以上の品質である。というわけで、多少の作りの雑さ加減はあるとしても、鹿猟師には価値がある道具だろう。

 ところで、このRL2は当時のシュレードのラインナップ中では異色の高価モデルだった*12。材料原価やら工程工賃が積もって原価になるわけだが、RL2が突出して高価格だったのには鋼材と熱処理のコストが大きいのではないかと推測する。

  デザインは、Schrade-Loveless等で画像検索してもらえばわかるが、1970年代のいわゆるラブレス・ナイフ、ブレードは「Dropped Hunter」、ハンドルは、フル・テーパード・タングの「IMPROVED handle」になっている。ブレードは、おそらくグラインダーのホイール径の違いによるものだと思うが、ガード側から4/3ほどはスパインにストックの平面を少し残したべベルになっているのが、本当のオリジナルとは異なる点だが、深いホローで刃先は十分薄い。スパインはオリジナル同様分厚い*13。ブレードの表面仕上げは、ワイヤー・ブラシを掛けた後に軽くバフを当てていると見る。

 

オールド154CM

 ダイヤモンド砥石で工場出荷時のエッジを修正*14。研ぎやすいというわけでもないが研ぎにくいということもない。これはダイヤモンド砥石の恩恵であって、研磨力のない砥石を使っていたら、このような硬い高合金ステンレス鋼の修正研ぎは大仕事だろう。エッジ自体は深いホロー・グラインドで薄く抜かれているので(エッジを研ぐ際の研磨面積が小さい)形状による研ぎにくさはない。

 エッジを整形した後、ファイン・インディア砥石で研いでみた。若干滑るような研ぎ味だが、ガーバーM2ハイスほど滑る感じではない。大きめの砥粒でエッジがチップするようなこともなく、粘りは十分にある。一方で変なカエリが出るほど粘っこいわけでもない。このあたりは期待通りである。ガーバーのスポーツマンズ・スチールとの相性もよく、鋭い刃付けになる*15。仕上げ用途でのハード・アーカンサス、トランスルーセント・アーカンサス等の砥石とは、他の高合金ステンレス鋼(巨大炭化物があったり炭化物の分布量が多い鋼材)同様、あまり相性は良くないように感じる。一方で、同じノバキュライトでもソフト・アーカンサスと分類されるような、ざらっとした不透明の、チョークのような外見のアーカンサス砥石とは相性が良い(理由は不明、あるいは研ぎの技術によるものかもしれない)。

 研ぎ上がりの感じは、Buckの425M時代のブレードのイメージ(というのは、わかりにくい比喩だと思うが、要するに私的には鋭い刃付けが比較的容易で良いという意味である)*16であるが、425Mより硬く、カエリも少なめな感じだ。

 ただ、やはり何回か研いでみて思うのは、各種炭化物による耐摩耗性の高さはかなりのもので、ダイヤモンド砥石が一般的でなかった時代には、154CMは扱いにくい鋼材だったろうと思う。ファイン・インディア砥石でエッジ成形をしようとしても時間がかかって根気が続かないし、砥面の摩耗も激しい。

 刃先までごく薄くホロー研削で抜いてあるのは、研ぐ面積を少なくして鋼材の研ぎにくさを補っている面もあるのかな。ブレード・ベベルからエッジの境目まで厚みを持たせた、独特のホロー・グラインドだった昔のバックナイフ(440C)が、米国では「研ぎにくい」、「硬い」、「刃がつかない」等の「定評」があったのは、鋼材というよりはエッジの形状によるものだった。

 

デザイン

 Scrade-Loveless Hunterというからにはやはりハンティング・ナイフであるからして、ハンターではない私のレビューは、いつも通りあてにならない。ドロップした切っ先は開腹する時に、大きくカーブしたエッジはスキニング、フレッシング時に使いやすいのは理屈の上では理解できる。深いホローの、エッジに向かって極度に薄くなるブレードは、使いやすく研ぎやすい。エッジ付け根の部分(ブレードバックから降りてきて、切刃 -研ぐ部位- が始まる部分)の厚さは設計上の要点である。しかし、元々の鋼材ストックが前述したような分厚いものである必要性はわからない。

 ハンティング・ナイフといっても、実際には獲物は色々で、また精肉に向けて様々な工程があるわけなんだけど、このナイフの場合は鹿猟師向けというか、鹿程度の大きさの獲物の前段階処理用途である。ラブレスさんの意図を推測するならば、毛皮の簡単な処理を含む、野外でのスキニングと大まかな解体までがスコープなんだろう*17

 では、我々の用途、山歩き、山遊び、キャンプ、野外調理、あるいは釣行向けとしてどうかといえば、もちろん小型の鋭利なナイフなので、その用途をこなすことはできるが(薄刃、短めの刃長、使い勝手の良いハンドル・デザイン)、そのような場でのナイフに要求される万能性を満たしているかといえば、必ずしも理想的でもないと言えるのではないだろうか?というのが私の感想で、で、じゃあどういうのが万能的に使えるのかといえば、Buckで言えば、#105(Pathfinder)あたりのデザインが思い浮かぶのである*18

 

153UH "Golden Spike"

 と、いうわけで、デザインの比較対象として、やはりシュレードの153UH "Golden Spike"を買ってきたのである。

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  型番153UHのゴールデン・スパイクは、1970年代半ばに登場し、なんと今なお現役である。とはいうものの、シュレード倒産後(2004~2005年前後だと思うが)は、テイラーにブランドを買われ、今は中国製として供給されている。この製品に関しては何といっても安価で、品質もそこそこらしいが、当然古くからのシュレード・ファンは米国製以外の「シュレード」には興味がなさそうだ。

 良く言えばクラシックな、悪く言えば古臭いデザインなのに登場が70年代というのはちょっと意外ではある。もともと当時でもシュレードはクラシック路線*19であって、現代のタクティカル路線のシュレードというのも違和感が凄まじい。まあ商売というのはそういうもんなんであろう。アウトドアーズマン、ハンター、そういう従来の顧客層が減っていく中でナイフ・メーカーが見出した活路がサバイバルとかタクティカル路線だったのではないかな。

 話を戻すと、買ってきたのは90年代半ばに製造されたSFOのゴールデン・スパイクである。レギュラーのモデルはStaglonと称するスタッグ・ホーンのイミテーション(デルリンで鹿角を模した)だが、このSFOはWinewoodと称するダイモンドウッドのような樹脂強化積層木材である。Rocky Mountain Elk Foundation向けのSFOでRMEFのメダルがハンドルに嵌めこんである。

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 このモデルは最初が炭素鋼(1095)で始まり、途中でステンレス鋼(Schrade+)に変更されてストック鋼材の厚さがわずかに薄くなって、グラインドもフラット・セイバーからホロー・セイバーになった。買ってきたのは、その過渡期なのか、ステンレス鋼でフラット・セイバーである。

 Schrade+というのは鋼材名ではなくシュレードの宣伝名みたいなもので、当初440A、後に420Cであると、マニアは教えてくれるが、公式な情報ではなかった。このナイフのようなSFOで、タング・スタンプが「LTD」のSchrade+は440Cだという情報もあったが真偽のほどは不明である。研いで使った感じでも、私には判別不能である。

 しかしこのナイフ、デザインも良く、作りが悪いというわけでもないのに、例えば当時のバックと較べたら、この形容しがたい安っぽさは何なんだろうか?シースのポケットに収納された砥石までが安っぽい。しかし実際にはこれは天然砥石(ソフト・アーカンサス砥石)で、まるっきり安物というわけでもないんだよな。シースだって縫製はしっかりしている。だが黒いコバ塗りがはみ出したりしているのがイメージ台無しである。

 ブレードの成形も良いのに表面仕上げが雑なのが印象が良くない。

 思うに、手作りには良さと悪さというのがあって、良さはあるけど、その悪さがなぜか目につくのが、シュレードが損しているところなんじゃないか。

 例えばの話、中国製のシースは一見ちゃんとしているのに、糸が弱い、縫製がほつれ易いとか、スナップ・ボタンの取り付けが不良でストラップから脱落してしまうとか、あるいはそういう金具類の強度がそもそも不足しているとか、附属の砥石(状のモノ)が全然使えないとか、そういう問題を抱えている製品があるが*20、シュレードの場合は、そういう品質上の問題はないのに見た目が「なんとなく」安っぽいというわけなんである。

 しかし、使ってみるとわかるのは、やはりロングランになっただけのことはある汎用性を備えた使い勝手の良さで、キャンプ用途を視野に入れると、これはかなり良い。シュレード・ラブレスも手になじむ素晴らしいデザインと使い勝手の良さがあるが、それとはまったく別系統のデザインのゴールデン・スパイクも、やはりその良さがあるな。つまるところ道具が手になじむというよりは手が道具になじんでいるようなところもあって、ナイフのようなシンプルな道具でもそのデザインというのは面白いもんだと思う。

 

で、どっちがいいのか?

<シュレード・ラブレス>

 154CM、HR-C60前後、エッジ薄い、深いホロー・グラウンド、スパイン(ストック)厚い

<ゴールデン・スパイク>

 440A、HR-C58前後、エッジ厚い、厚ぼったいフラット・グラウンド、スパイン(ストック)薄い

 

 で、実際に使って研いでみると、ラブレスはエッジというかエッジの上部のキワ、ブレード・ベベルと接する部分が十分薄いので、エッジ面積は細く、それゆえ(154CMの耐摩耗性の高さによる)研ぎにくさはかなり緩和される。GSのほうはエッジ上部は厚ぼったくブレード・ベベルのフラット・グラインドも浅いので、同じエッジ角度を得ようとするとエッジ面積(研ぎ面積)は広くなるが、鋼材は154CMと比較すると劇的によくおりる。

 というわけで、同じメーカーが造っているわけではあるが、これも対称的な製品コンセプトで、どちらがいいかはすでに好みの領域ではある。最近のBuckが、やはりこんな感じのラインナップにしていて、研ぎやすいのと刃が持つのどちらかをユーザが選べるようになっているのも、やはりどちらがいいとも言い切れないからなんだろう。

 いろいろ話が逸れたが、もともと比較したかったのはそっちの話ではなく、154CMの焼き戻しの件である。これは、以前書いたこともあるが、GT KNIVESのATS34(おそらく低温焼き戻し)の刃付けのし難さに始まった疑問だった。刃先が粘る鋼材は歓迎したいところだが、いかんせんカエリの発生と貼りつきが著しい。ATS34の焼き戻しの主流は低温焼き戻しで、耐衝撃性、耐腐食性などの物理的特性はそのほうが良いことは実験データにも出ているようである。

 一般的なナイフはもちろん耐衝撃性があるのは良いことではあるが、一方でこの研ぎにくさを経験するにつれ、アウトドア・ナイフに、機械部品などに求められる特性がそのままあてはまるわけでもなさそうな気がしていた。

 高温焼き戻しは、もともとの154CMの用途、耐熱の要求に応えるもので、ハイス鋼のようにモリブデン炭化物の生成によって硬化させるものだと思うが、この耐熱性もナイフにとって必須の特性ではない。しかし結果としてナイフ向きの熱処理になるということもあり得る。結局のところ、他用途鋼材からの転用が多いナイフにとっては、その熱処理の選択は現物で研いで使ってのテストを繰り返すして答えを出すしかない。

 個人的な結論を書くと、ハイ・テンパーの154CMは素直な鋼材で、GT KNIVESのATS34のような刃付けの難しさは感じない。小型ハンティング・ナイフのブレードに使う範囲においては良さが発揮されるというものだ。錆びやすいという問題も感じない。同一デザインでロー・テンパーのナイフと比較した話ではないので、個人的納得にすぎないが。

 少し前までは、ハイ/ロー・テンパーのどちらがいいか論争は多少あって、シャルピー試験のデータは公開されているが、研ぎやすさや切れについての比較試験は見たことがない。今更154CM/ATS34の熱処理研究も需要がないのかもしれない。ただ少なくとも実用上は、ハイ・テンパーの154CMはなかなか良い、自分好みの刃ではあった。

*1:154CMは、クライマックス・モリブデナム(Climax Molybdenum Company)の開発したモリブデン添加のステンレス鋼で、ボーイングのジェット・エンジンの何かの部品(排気系という話もあれば、タービン羽という話もあるが、特性を考えるとあるいはベアリング関連か?)に使用されたという触れ込みであった。クライモリからレシピを買ったクルーシブル(Crucible Materials Corporation)が製造したものが、もっぱら流通していて、クルーシブルの経営悪化のあおりもあり、当時の品質は一定していなかったらしい。ただこれは私の体験ではなく伝聞である。

*2:これも諸説あって、747エンジンのセカンダリ・タービンのベアリングに用いるべく開発されたが、結局、実際に使用されることはなかったという話もあった。ちょっと調べてみたが真偽のほどは不明である。ちなみに、ラブレス・ナイフの1970年代カタログによれば、「747ジェット・エンジンの高温になる部分に使用するための鋼材」というような表現である。

*3:熱処理に関していえば、154CM/ATS34はモリブデン4%添加で二次硬化する鋼材であり、熱処理のレシピはおおまかに2種類ある。要するに「高温焼き戻し」か「低温焼き戻し」である。日本では普通に熱処理屋さんに依頼すると、刃物用途では低温焼き戻しを行うんではないだろうか?いずれも最終的な硬度は似たようなものだが、高温焼き戻しでは耐食性と耐衝撃性が損なわれるという実験結果がある。それゆえ日立の推奨(ほぼ同鋼種のATS34の場合)は低温焼き戻しになっていると思う。しかし、私の知る限り、ラブレス・ナイフは高温焼き戻しを採用していたはずである。

*4:なぜ熱処理にこだわるかといえば、以前の記事にも書いたが、ATS34のナイフはすでに持っている(GT KNIVESのフォルダー)。ただ、その使い勝手には少々疑問があったんである。よく粘るが研ぎにくく、研ぎにくい結果としてハシコイ切れ味(英語で言えばcrisp edgeか)を出しにくい。ただの憶測だが、これは低温焼き戻しによるものではないかという疑念があった。

*5:これは数はほんとに出ないんだが、出ればわりと手頃な値段である。

箱に同梱されていたリーフレットの記述
・Special high grade steel alloy for extra edge-holding hardness, resistant to corrosion and super resilient.
・Custom ground, hand glazed and hand oilstone edged.
・Delrin handle guatanteed to last the life of the knife. Thumb gloove grip to provide extra control.
・Solid brass guard for added beauty and safety.
・Handle custom fitted to blade and jointed with solid brass escutcheons. Fastened for life with tapered rivets.
・Top-grain steerhide sheath, wet molded for perfect fit and velvet action.

1975年リリースで1977年までに4,000丁が製造され、シリアル・ナンバーがガード側面に打刻された。シュレードのカスタム部門(昔の米国の大手ナイフ・メーカーにはこのような部門があって、比較的少量生産のSFO -Spacial Factory Order- や限定モデルの生産を担当していた。SFOの需要はけっこうあって、販促品や贈答品として特別モデルが製作された。このへんは日本にはない文化である)が担当したようである。

入手したRL2は比較的初期のシリアルナンバー(1,000番より若い)で、同梱されていたリーフレットには限定版である旨の記述があるので、ロングランのモデルではなく最初から3,000~4,000丁程度の限定生産が前提だったものと推測する。

その後、同様なデザインの流れを汲んだモデル(型番で言うとSCM11、CH2、PH1、PH2など)が、限定版ではなくレギュラーのラインナップとして製造されているが、オリジナルのラブレスとのコラボレーション・モデルとは別物であり、いわばシュレードの自社アレンジ版のような感じである。それらモデルには154CMではなく「Schrade+」ステンレス鋼が使用されている。

*6:私は中国製ナイフには、率直に言って興味がないが(購入意欲が湧かないというべきか)、中国製でもけっこう品質が良いものもありますよ、という人もいるし、いや、そもそも過去に中国に住んでいたときにいくつか買って使ってみて、けっこういいものはありましたよ(日本の百均で売っている、『Galaxy』ブランドの安包丁は、先日たまたま使って研ぐ機会があり、その作りはともかく鋼材の選択と熱処理のまともさに驚いた。もっとも中国製かどうかは知らないが。あれはどこで製造しているのか?)。炭化ボロンの砥石もたくさん買って使ってますよ。でもそれは実用の品であって、値段の割にはそこそこ使えるといったものであって(最近は品質はたいして上がらず値段、主に人件費だけが上がる傾向だが)、趣味の物品として薦められるレベルのものではないんである。

 実用ナイフなんていうものは単純な工芸品、工業加工品であって、見た目良く作るのなんて、自動工作機の普及している今や簡単なことでもある。実際に使うとなると、デザインもそうだが鋼材の質、熱処理あたりの見ても分からないところがけっこう重要なわけで、要するにそういう目に見えない部分に金をかけるということは普通の中国人はしない。職人気質よりは金儲けである。文化の相違である。コツコツやるより楽して荒稼ぎしたい。その気持ちはよくわかるし非難するつもりはないが、そういう奴の作る製品は趣味では買わない。正直なところ、エセ共産金儲け主義にはとことん辟易しているんである。

*7:152OT (Sharpfinger)なんかはシュレードの象徴的なモデルだったと思う。

*8:どちらかといえば、かつてのシュレードは、スリップ・ジョイントの多刀フォールディング・ナイフが本領だったようなイメージもある。Buck Knivesに対して、(カミラスからと同様に)シュレードが製造してOEM供給しているモデルが過去にあったと思う。

*9:その中途半端感が、生き残れなかった理由ではないかと私は勝手に思い込んでいるが、まあ実際のところはよくわからない。好きか嫌いかといえば好きだし、米国内にもファンはいる。労働者階級のアウトドアーズマンにとっての愛すべき道具であり、ただ貧すれば鈍するというか経営が厳しくなってからの引き際の見苦しさは多少あったようでもある。

*10:もともと70年代の米国産ファクトリー・ナイフっていうのは、まあ今の水準からすると雑な感じはあるよね。これはつまり本当の意味での実用品であったということの裏返しでもあるのかもしれない。きれいに作っても「使え」なければ(使い勝手が悪いとか切れ味が悪いとか)売れないし、そもそも実用の道具に高い金を払う人も少ない。シュレードのキャッチ・フレーズの1つは「Built To Last A Lifetime.」だった。一生モンの買い物というほど大げさではないにしても、この時代のナイフ選びというのは、それなりに真剣なものであったように思われる。今の市場は、そういう本質的な実用性は逆に疎かになっているというか、その辺が、殊に趣味としてのナイフ集めの人にはあまり重視されなくなってきているし、一方で使い捨てみたいな安価なナイフも市場には溢れている。

*11:欠点としてはハンドル・スケールに(シュレードお得意の)デルリンを使ったことだろう。このナイフの場合、その色合いの選択(バーガンディ、暗めのワインレッド色)はいいとしても、この材料は基本的な耐久性はいいんだが、陽に当てていると白い粉を吹くのと、殊に、この手のフルタング構造に向かないのはエポキシ接着剤のなじみが悪いんである。ここはやはりマイカルタにすべきだった。とはいえ、40年を経て剥がれるといった問題があるわけではない。

*12:1975年頃の100ドル、今でいうところの30,000円くらいの感覚か?当時のカタログによればシュレードのレギュラーのシースナイフは30ドルくらいである)。今はマニアの趣味ナイフが30,000円でも驚かないというか、むしろお手頃価格ですよねという人もいると思うが、当時としては、工場生産のハンティングナイフに100ドルは高いよ、という感覚だったようである。なお、本家であるところのオリジナル・ラブレス・ナイフは、当時、300~500ドルくらいの価格レンジである。

*13:ラブレスさんがなぜスパインをこのように厚く残しているのか(言い換えれば、なぜ小型のナイフに厚いストック鋼材 - 3/16インチ - を使っているのか)、その理由は私にとっては定かではない。しなりを嫌っているのか、あるいは単純に強度を持たせるためのものなのか、このナイフは鹿猟師向けのデザインだが、鹿の処理に必要な機能がこの厚さにあるのだろうか?

*14:旧シュレードのナイフを多く所有していたわけではないが、大幅な修正が必要な刃付けのものはなかった。これも同様であった。要するに左右のエッジ角など、全体に渡って概ね正確な刃付けがされている。そのへん昔のガーバーなんかはいい加減なものがけっこうある。

*15:ラブレスさんもかつてカタログでガーバーのスポーツマンズ・スチールやシュレードのホーンスチールをフィールドでのタッチアップ用途として推奨していた。ちなみに彼の研ぎに関するアドバイスは「8インチ以上の長さの砥石を使え」であった。

*16:私のナイフの研ぎについての原体験が425Mや440Cだったので、今もそれが基準になっているようだ。425Mは、やはりクルーシブルの品質が問題になり採用されなくなったようだが、汎用ナイフのステンレス鋼材としてバランスが取れていて、なおかつ刃付けが容易なのが素晴らしい。

*17:面白いと思ったのは、各種ハンティング・ナイフの説明で、「このナイフはdeer用にベストだが、elkにはこのナイフ」というような分類がアメリカのサイトにあって、要するに鹿類でも小型と大型でさらにナイフを細分化して考える人もいるのである。このへんはハンターでなければわからないな。その分類から言えば、ラブレスのこの刃長のドロップ・ハンターは小型の鹿、deer用なんだろう。elk用にはもう少し細身で刃長のあるものが使いやすいようだ。

*18:万能アウトドア・ナイフであり、ハンティング・ナイフとして見た場合は、いわゆる「elk用」的なデザインである。Caseで言えば、316、216、381あたりのモデルがこのへんのレンジだと思う。

*19:古いシュレード オールド・タイマーの紙箱には「Knives Like Grandad's」とある。

*20:思えば、昔の日本製ナイフもそうだった。